2018.05.11
住吉祭のお渡り ―住吉から堺へ、地域に受け継がれる伝統―
■住吉祭とお渡りについて
8月1日夕方6時、チンチン電車(阪堺電車)の「大和川駅」にて次々と下車する人達。この場所から住吉祭のお渡りの風景を楽しもうと訪れた人たちです。住吉祭とは7月30日から8月1日にかけて例年行われる住吉大社の祭典で、大阪三大夏祭りの一つとしても知られます。海の日に 海水により神輿をお清めする「神輿洗い神事」が行われ7月30日31日に「宵宮祭」と大阪府指定民俗文化財である「夏越祓神事・例大祭」が行われます。同じく7月31日に堺の大浜公園で行われている大魚夜市の原型となった魚市は、住吉祭の日に開かれ、堺にお渡り(渡御)してくる住吉の神に魚を奉納する特別な市だったようです。
そして8月1日には住吉大神の神霊をお遷しした神輿が担ぎ手達の手により行列とともに御旅所である堺の宿院頓宮まで巡行します(神輿渡御)。この神輿渡御のことを「お渡り」と呼んでいるのです。
大和川の橋の上にはすでに神輿を前後に大勢の人が列をなし、お囃子と花火の音で賑わっていました。
ドンッ!ドドッゴン、ドンッ!ドドッゴンという和太鼓の音が響く大和川河川敷。その河川敷に神輿が1基、夕方の晴れた空にきらびやかに映え、担ぎ手達の手に担がれて練り歩きます。
■受渡される神輿~大阪市から堺市へ~
神輿は大阪市と堺市の境界である大和川において、大阪市の担ぎ手から堺市の担ぎ手へと受渡されます。住吉大社といえば大阪市内に位置する神社ですが、堺市とはどのような繋がりがあるのか、お渡りを見ながら太成学院大学客員教授の中井正弘先生にお話を伺いました。すると住吉大社と堺との意外な繋がりが見えてきました。
「住吉さんは大阪市の神社として有名ですが、かつて室町時代から江戸時代、そして明治時代にかけて、『堺の住吉さん』と言われてきたのを知っていますか?
住吉さんはもともと、堺の人たちの信仰を多く集めていた神社だったからです。
中世に、堺にやってきたキリスト教宣教師も、住吉大社を『堺郊外の大殿堂(神社)』と本国へ報告をしているんですよ。」
「住吉さんの前や境内にはものすごい数の石灯篭が寄進されていますよね。江戸時代の初めまでは石灯籠の寄進という風習はなかったんです。住吉大社の正面に入ったところに『住吉大社』という石柱があるでしょう?その横に10メートルを超える大きな石灯籠が左右に並んで建てられています。一つは大阪の商人、もう一つは堺の人が寄進したものです。
また、太鼓橋の上り口のところにある2体の狛犬、そこには『堺講中』と彫られているんですよ。江戸時代においても住吉さんと堺との繋がりは非常に深いわけです。
古い堺の地図には大抵、住吉大社の境内図が載っているほど、その信仰がずっと続いているのです。」
「このお渡りのことを描いた資料に『住吉祭礼図屏風』(堺市博物館)があります。江戸時代のお渡りの様子が描かれています。この屏風を見ると神輿4基の行列が太鼓橋を出始めたところで、先ぶれの行列はもう頓宮に到着しているんです。そのくらいずううっと、大行列なわけです。ものすごく賑わっていたのです。」
先生のお話を伺うと、堺は住吉大社と昔から深い繋がりがあったことがわかります。堺の人が誇りをもって住吉さんの神輿を担ぐ、その思いも伝わってきます。
■綾之町でも楽しめます
先生のお話を伺った後、再びチンチン電車に乗って「綾之町」の駅まで先回り。神輿の行列がここを通るのを待ちます。広い綾之町の交差点に神輿の行列がやってきました。
「子供たちが曳く船の神輿」)
こうしてワクワクと待ち構えるのも楽しいものです。このあとも神輿の行列は紀州街道を通り、そして大小路山之口商店街を通って御旅所である宿院頓宮まで巡行します。そして宿院頓宮にて「荒和大祓神事」が行われます。
■今年も開催されます!
こうした伝統的なお渡りの様子は堺の人にとっても、また観光で訪れる人にとっても、たいへん見事で見ごたえがあります。大和川において見るのも大きな見どころの一つ。そこでは担ぎ手が堺市の担ぎ手へと受渡される様子もぜひご覧になってみてください。増水時では橋の上で、そうでなければ河中での受渡を見ることができます。
神輿渡御は今年も8月1日に開催されます。当日の時間については要確認。チンチン電車に揺られながら大和川までお渡りを見に行ってみませんか?きらびやかで美しい大神輿を間近でご覧になって日本古来より伝わる壮大な人々の思いや伝承・伝統にぜひ触れてみてください。