2017.03.18

近所の居酒屋に、隠れた堺の歴史を見つけた!―酒場 川内

「酒場 川内(かわうち)」は、南海本線「七道」駅から徒歩数分にある酒場です。ネットのグルメ情報サイトなどでは、居酒屋とも焼肉屋ともいわれ、道の込み合ったあたりにあるせいかたどり着けない人もいて、ちょっとした伝説のお店になっています。
店内は大きなテーブルが二つとどっしりしたカウンターがあり、風格となつかしさを感じさせる風情です。それには理由がありました。このお店自体、店長の川内昇さんが大工さんの手を借りずに自分で全て作ったもの。そのベースになっているのは100年の歴史を持つ「川内酒店」だったのです。


 

■ お店の前身は酒屋さん


「この棚は一升瓶を並べていたもの。こっちの椅子もその棚から作ったものなんや」
と、川内さん。名残はそれだけではありません。店内で目につくのは、川内酒店の古い木製の看板です。この看板は、酒店の時代に酒造会社から送られてきたもの。漆塗りの立派な「都菊(肥塚酒造株式会社)」と「金露(金露株式会社)」があり、特に「都菊」のものは酒樽を立体的にした造形で、これは特に貴重な戦前のものであることの証です。江戸時代から明治にかけて、堺は灘や伏見にならぶ酒処でしたが、まさに100年の人の温もりと歴史が息づくお店なのです。


都菊の看板(左)と金露の看板(右)


酒屋からのお酒と料理を出すお店になったのは、灘の酒造会社が被害を受けた阪神淡路大震災がきっかけです。「お酒だけではやっていけない」と、お米を扱い店頭でコロッケを売るようになりました。ビールを片手にコロッケを道端で食べる若者を店内に招き入れたことから、お店に座席を置いたのが始まり。実はかつて近所にあった川内酒店の支店では料理も出しており、若き日の川内さんは独学で料理を学び庖丁を握っていました。その経験を活かし、完全に酒場へとシフトチェンジしたのは10年程前のことでした。

気さくなご主人、川内昇さんとおかみさん


 

■ 歴史も料理も味わえる、本当に希有なお店


お店すら自分で作ってしまう川内さんは当然料理へのこだわりも人一倍です。
「マグロとバラでは、うちは儲からへんのや」
と笑うほど、良い素材を仕入れて手ごろな値段で提供。
「見て、これが自慢の生タン」
このタンの薄切りを、手焼きして一緒に火にかけた塩バターでいただく。さっぱりとした味わいのタンにバターのコクと塩気が絡む。これはこのお店でマストの逸品でしょう。



マグロのお刺身も同様です。ひんやりとした刺身が、口内の体温で溶けていく。その脂から出てくる旨みが舌一杯に広がっていく幸福感。
それだけでなく人気のおでんや焼き物、奥さんの握るおにぎりのどれもが看板を張る力があります。なるほど「焼き肉店」とも「居酒屋」とも限定できず、「酒場」というのがぴったり。



 

堺の隠れた名店「酒場 川内」は、よくあるレトロ“風”酒場と違って、フェイクでない本物の料理と時代を感じさせるお店でした。

 

<行き方>


●酒場 川内・・・南海本線七道駅から徒歩5分



〒590-0906 堺市堺区三宝町3丁190
TEL:090-7489-6649