2017.03.17

女たちが体を張って生きた場所―江戸~明治期の堺の遊郭

江戸の時代から日本人はガイドブックが大好き。その一つ全国25か所の主要な遊里が紹介されている遊里案内書「色道大鑑」(1678)に、なんと堺の遊里が2つ、紹介されています。その遊郭とは、

●堺北高洲町(現在の堺市堺区北旅籠町東。今の高須神社のあたり)

●堺南津守(現在の堺市堺区南旅籠町。今の南宗寺のあたり。かつて乳守(ちもり)とも呼ばれた)

の2カ所。かつては“北の高須”“南の乳守”と呼ばれた、2大遊郭です。

 

■ はじまりは旅籠町


「旅籠町」とは旅人を泊める旅館が立ち並ぶ町のこと。堺のまちの北と南の両端に位置する旅籠町ではその商売の性質上、自然に人が集まり遊郭ができていったのでしょう。
そのふたつの遊郭は室町時代に生まれ、少しずつ増えていき、全盛期には遊女だけでも1000人はゆうに超えていたといいます。
中世以降、海外との貿易で栄えていた堺の豪商たちは、遊び方やお金の遣い方も豪快だったのではないでしょうか。そう考えると堺の遊里が全国有数レベルに達していたのも不思議ではない気がしますね。
南の「乳守遊郭」は、江戸時代の旅のガイドブック「和泉名所図会」にも登場。酒席での舞いや歌の音が絶えない当時のまちの賑わいが活写されています。北の「高須遊郭」は、堺市史(昭和5年刊行)に「明治5年に遊郭指定地にもれてから次第に衰えていった」と記されています。

現在の北旅籠町
現在の北旅籠町

現在の南旅篭町
現在の南旅篭町(左)と明治の乳守遊郭(右)


■ 新しい遊郭の誕生


寛政初年(1790)から行われた大規模な堺港の改修で生まれた新地が「龍神」と名付けられ、ここに新たに「龍神遊郭」と「栄橋遊郭」がつくられていきました。
「全国遊郭案内」(昭和4年刊行)によると、当時の堺の遊郭は「龍神橋」「栄橋」「乳守」の3つ。その規模は
龍神橋遊郭・・・貸座敷数十件、娼妓約100名、乳守遊郭・・・妓楼40件、娼妓約400名、栄橋遊郭・・・妓楼60件、娼妓約540名位 と記されています。
あわせて数百メートル四方にすぎない龍神橋町と栄橋町に相当な数の遊女たちが働いていたことがわかります。


明治期の龍神遊郭



現在の神明神社(栄橋町)の玉垣。寄進者名に「龍神廓」とあります。隣には「福栄楼」や「大江楼」。「品乃屋」は料理屋でしょうか?

昭和20年の堺大空襲で、新地のあたりは壊滅的な被害をうけ、大勢の遊女が逃げ遅れて亡くなりました。戦後の復興が進む中、昭和33年に遊郭制度が廃止されるまで龍神・栄橋遊郭は続きました。

 

■紙カフェで盛り上がる 遊郭イベント


堺の遊郭に生きた女性たちを偲び、山之口商店街のカフェ『紙cafe produced by TOUR DE SAKAI』で「遊郭イベント」が開催されました(2017年1月22日(日))。
店主・松永友美さんが開催のきっかけを語ってくれました。「堺に巨大な遊郭があったという歴史を知り、そこで働いていた女性たちに心ひかれました。遊女の世界は階級社会。自由とはいえない身の上でみんな上を目指して技を磨いて、周囲の偏見にさらされながらも懸命にたくましく生きていたんですよね。そういう意味では色んなしがらみに縛られながら生きている現代の女たちにも通じる部分があると思います。」
参加者はみなあでやかな着物姿。どれもはっとするほど着こなしが斬新でかっこよく、色っぽいのです。

シックで粋な着こなし

着付けを担当されたのは和コンサルタントの宮田真由美さん(「音遊(おんゆう)」代表)です。

「今回のコンセプトは『遊女』ということだったので、あえて着崩して女性らしさを出すように仕上げました」

たしかに納得。みなさんの色気が満ち満ちて、カフェ店内がゴージャスな空間に変身していました。はっとするほど色気のある女性の所作や表情は見ていると気持ちが浮き立ちます(女が見ても!)。

ライブに聴き入る遊女?達

美味しいお酒やお料理に三味線やボサノバのライブがあったりと、非日常な世界をたっぷりと楽しめた遊郭イベント。これからも『紙カフェ』で不定期に行われる予定です。

 

<行き方>
高須神社・・・阪堺線 高須神社(たかすじんしゃ)駅目の前


神明神社・・・南海本線 堺駅南口西側


南宗寺・・・阪堺線御陵前駅から東へ徒歩5分


<遊郭イベント 取材・撮影協力>
●音遊
〒591-8043 堺市北区北長尾町3-4-18
TEL:080-3115-6008
http://onyou-wa.localinfo.jp

●紙カフェ
〒590-0952 堺市堺区市之町東2丁1-5
山之口商店街内 夢俱楽部本舗
TEL:072-228-5201
https://www.facebook.com/kami.cafe.sakai