2017.05.01

堺の、だけにとどまらない日本の財産―堺能楽会館

堺には個人資産のすべてを投じて能狂言を次世代に伝えるため、本格的な能舞台をつくってしまった人がいます。
「堺能楽会館」の館主 大澤徳平さんの母、美代さんです。どこにも負けない本物を堺に造ろうと、約50年前の昭和44年に堺能楽会館を完成させました。総檜(そうひのき)造りの舞台、檜皮葺(ひわだぶき)の屋根、そのたたずまいに誰もが驚きます。


総檜造りの能舞台


会館のオープニング当時、66歳だった美代さんは、
「私どもは家業の酒でみなさまに酔っていただきましたが、これからは能の幽玄の世界で酔っていただきますよ」。
とスピーチ。さすが、昔堺に数多く存在した名だたる酒造のひとつ「大澤徳平商店」の夫人。ウイットに富んでいます。


■亡き夫に代わり家を支えた女性、美代さん


江戸時代から続く商家(酒造)、大澤徳平商店は、能楽堂館主 大澤徳平さんの代で9代目になります。三つの蔵を持つ店が酒造を続けられなくなったのは、戦争が原因でした。昭和20年の堺大空襲で酒蔵が全焼。その前年に大澤さんの父、8代目当主の鯛六さんが病気で亡くなっています。
戦後、徳平さんの母、美代さんが大澤家を背負っていくことになりました。このとき一家を救ったのが趣味人であった鯛六さんが残した湊焼きの登り窯。


楽焼の流れから生まれた湊焼。
歴史の中で何度も途絶えかけ、その都度継承しようとする人が現れました


塩壺や土鍋などを焼いて販売し、商売は広がっていきましたが、昭和36年の第2室戸台風で窯が大きな被害を受け、焼き物業も廃業せざるをえなくなります。
その後、先祖代々からの大浜の土地に貸しビルを建て、その中に「堺能楽会館」がつくられました。日本で唯一の“個人所有”の能舞台です。

■個人所有の能舞台から文化を発信


「堺の商家では茶道に能の謡(うたい)が習いだった」と教えてくれた徳平さん。しかし、堺には能舞台がなく、舞のおけいこができなかったといいます。能が好きだった美代さんは、ならば能舞台をつくってしまえばいいと思い立つのです。美代さんの粋でかっこいいエピソードです。
徳平さんはこの能楽堂を受け継ぎ、能の公演の他に小中学生の能体験に舞台を開放。子どもたちに能文化を伝えています。


改名して徳平の名を継いだ、9代目大澤徳平さん。
この能舞台で多くの子どもたちが能・狂言に触れることが出来ました


さらにクラシックやオペラのコンサートを開くなど、能の枠を超えたイベントも積極的に開いています。
こちらの能楽堂は外からは普通のビルにしか見えません。能狂言というと難解で取っつきにくいイメージがありますが、こんなにも身近に能を楽しめる場所は、全国でもここだけ。堺の大切な文化財産です。
毎月第1・第3土曜日には、「堺能楽堂 本舞台・楽屋見学ツアー」を開催しています。ぜひ訪れて能の世界の一端に触れてみてはいかがでしょう。

 
次の世代に日本の伝統文化を引き継いでいきたい」「市民に親しんでもらいたい」という思いから、様々な学生や市民向けのイベントが開催されています


<行き方>


●堺能楽会館・・・南海本線 堺駅南口から南へ徒歩7分
〒590-0974 堺市堺区大浜北町3丁4-7-100 ダイトクビル一階正面
TEL:072-238-2000


・能楽会館体験見学ツアー案内
http://www.sakai.click/wp-content/uploads/2016/06/nougaku.pdf

・能楽教室
堺能楽会館では重要無形文化財総合指定保持者である浅井文義先生による能楽教室を行っております。
※お申込みお問い合わせはお電話で
TEL:090-2107-7108(深田)